【誰がために鐘は鳴る】のタイトルの意味知ってる?あらすじと登場人物紹介

「誰がために鐘は鳴る」は有名な小説タイトルですが、ここには隠された意味があります。

「愛し合う2人のために鐘は鳴るんだ」などと、意味を取り違えて他の作品の「副題」などに使われているのを見ると、ヘミングウェイファンとしては「あれ?意味が違う…」といちいち気になってしまいます。

そこで今回は…

  • 「誰がために鐘は鳴る」のタイトルの意味
  • 「誰がために鐘は鳴る」のあらすじネタバレ
  • 「誰がために鐘は鳴る」の登場人物紹介

をまとめていきますね。

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ファンゆえのマニアックな情報も散りばめておきますので、文学部の論文などのお役に立てばと思います。

他にも「海流のなかの島々」「老人と海」の考察もしているので、参考にしてください。

「誰がために鐘は鳴る」の評価(わたしの)。
  • 面白さ:4 out of 5 stars (4 / 5)
  • 読みやすさ:4 out of 5 stars (4 / 5)
  • 導入の引きこみ:4 out of 5 stars (4 / 5)
  • 読んだ後の満足感:4 out of 5 stars (4 / 5)
  • 読むのにかかった時間:200分

蓮

↓画像タップでAmazonの画面に飛びます。2021年3月時点でAmazonkindleでは読めませんでした。


「誰がために鐘は鳴る」のタイトルの意味

ジョン・ダンの詩

ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」という本を開くと、冒頭に1つの詩が書かれています。

なんぴとも一島嶼にてはあらず
なんぴともみずからにして全きはなし

人はみな大陸(くが)の一塊(ひとくれ)
本土のひとひら
そのひとひらの土くれを
波の来たりて洗いゆけば
洗われしだけ欧州の土の失せるは
さながらに岬の失せるなり
汝が友どちやなれみずからの荘園の失せるなり

なんぴとのみまかりゆくもこれに似て
みずからを殺(そ)ぐに ひとし
そはわれもまた人類の一部なれば

ゆえに問うなかれ
誰がために鐘は鳴るやと
そは汝(な)がために鳴るなれば

ジョン・ダン

これは16~17世紀のイギリスの詩人、ジョンダンの詩です。ジョンダンの詩は、今読むと「あ…当時の官能小説的なやつかな」と思えるようなエロティックな若者の恋愛や、人の死についての内容が多いです。

蓮

女性の衣服を順番にどんどん脱がしていくような詩とか、「暗闇で気持ちよく彼女と抱き合っていたのに、せっかちに登ってくる太陽…カーテンのすき間から強力な光線でのぞくなんて、太陽…オマエはエロオヤジかよ」みたいな詩もありますw太陽をエロオヤジってwwしかもこの人神父さんなのねwウェットに富んだ神父さんの詩人として、人気者なんです。

ジョン・ダンの詩の意味の現代語訳

「誰がために鐘は鳴る」という詩は昔の日本語訳だと「何が言いたいかさっぱり」なのですが、かいつまんで現代版に直してみました。

「誰がために鐘は鳴る」のジョンダンの詩の意訳。

地上に存在するすべてのものが、私たちが生きる世界だ。
1人で完璧な世界はなく
人はみな、大いなる大地の一部である。

1人が波に流されて大地の土が失くなるということは、
さながらに一つの岬が失せるようなものであり、
あなたの友人やあなた自身が削り取られるようなものだ。

誰かの死は、自らの死に等しい。
なぜなら私もまた、人類(大地)の一部だからだ。

だから、「これは誰の弔いの鐘なの?」と疑問に思ってはいけない。
弔いの鐘はいつでも、あなたのために鳴っているのだから。

意訳を個人的にわかりやすく直してみました。

この小説の中では「主人公の死はあなたの中に生き続ける」という意味にとられます。「恋人の弔いの鐘はあなたのために鳴っている」のだと。

しかしこの元の詩はもっと大きな意味を持ちます。

「個は全・全は個」の思想で、人類の誰か1人の死は、人類全体…自分自身も属する世界が欠けることになるから、自分に関係ない他人の死であっても、自分自身の損失なのだよ、ということです。

ここで言う「鐘」は人の死を知らせる教会の鳴らす「弔いの鐘」の意味です。

「遠くで死んでいる誰かの死を他人事と思わないで!あなたにも深く関りがある死なのだから!」

と言いたいんです。

戦争無関心世代の現代日本人にとっては耳が痛い訴えですね。

今でも世界中で戦争や悲劇が起きていますが、平々凡々と生きている私たちからすると「完全に関係ない出来事」と思いがちですよね。けれども地球上のどこかで起きている「他人の死」は、あなたも含む大きな世界の損失なのです。

そう訴えているんです。

蓮

「戦争を他人ごとだと思わないで!」という叫びのようにも聞こえます。「ニュースで流れる人の死を他人ごとと思わないで!」という警鐘にも聞こえます。

ジョン・ダンの詩の意味を踏まえて「誰がために鐘は鳴る」の意味を知る

「誰がために鐘は鳴る」は「愛し合う2人のために鐘は鳴る」という意味だと思っていましたが、違いました。

これは小説なので、読み手への語り掛けと、語源となったジョン・ダンの死の意味を照らして…

「スペイン内乱で散った若者の死は、現代の平和な世に生きるあなた方の大きな損失でもあるのだ」と戦争悲劇を訴えているのです。

「この小説を読んで、気が付いてほしい。見知らぬ誰かの死は、あなたの損失でもあるのだ」と。

「他人の死に無関心であるな。その死は、あなたにも大いに関わっているのだから」と。

更に、戦争で亡くなる多くの命を忘れるな、という意味にもとれます。

「誰がために鐘は鳴る」の舞台

「誰がために鐘は鳴る」の舞台はスペインです。アメリカ人兵士ロバート・ジョーダンがマドリードで指令を受け、スペインの「ラ・グランハ」あたりの山岳地帯に潜入して、現地にいた共和党のゲリラたちと協力し、橋を爆破する任務につくストーリーです。

地図で赤いところは「共和党」の陣地で、青いところがフランコ率いる「ファシスト」の陣地と考えると、まさに前線です。敵の真っただ中です。作中には「前線の先」と書かれているので、ファシストの支配する地域に潜入していたんですね。

現在ではその地域は「ラ・グランハ公園」となっています。

「誰がために鐘は鳴る」の時代背景

「誰がために鐘は鳴る」はスペイン内戦のゲリラ戦を書いたストーリーなので、1936年~1939年の時代を書いた小説です。スペインの内戦は軍人のフランコが率いる反乱軍が、共和党と対立して起こり、ドイツ・イタリア・ポルトガルの支援を受けた反乱軍が勝つという歴史に名高い内乱です。

その後フランコによる長期独裁が行われたとして、スペインの歴史の大きな局面として名高い悲劇です。1939年の内乱の後はすぐに第二次世界大戦に突入し、混乱の中でフランコに対峙した共和党の多くは悲惨な運命をたどりました。

「誰がために鐘は鳴る」の主人公ロバート・ジョーダンは共和党派として参戦して、現地の共和党メンバーと協力して前線で戦います。

時期は、フランコ率いる反乱軍が、ドイツイタリアの支援を受けて政府軍(共和党)を圧迫し始めた1938年の春であり、戦局が最も緊迫した時期でした。

「誰がために鐘は鳴る」の登場人物紹介

  • ロバート・ジョーダン…アメリカから来た軍人で、スペイン内乱のゲリラ戦に参加して、橋の爆破をする任務を負う。アメリカではスペイン語を教える大学教授で知識人であった。現地でゲリラ兵たちと合流し、そこで出会ったマリアと束の間の激しい恋に落ちる。
  • マリア…19歳のスペイン娘。ファシストに村を襲われ、拉致されたのち凌辱され、ゲリラ兵に救われ行動を共にした。橋の爆破任務で来たアメリカ人のロバート・ジョーダンに恋に落ちる。
  • ピラール…共和党のリーダーであるパブロの女で年齢は48歳。パブロが腑抜けになってからは、実質「女リーダー」としてゲリラ兵たちを率いている。不器量な容姿を恥じており、若く美しいマリアに嫉妬もするが、娘のように保護してもいる。
  • パブロ…ファシストに対する虐殺を指導した経験がある。ロバートジョーダンが協力を仰ぐゲリラ軍のリーダーであるが、度重なる残虐行為を目の当たりにし、精神が不安定で酒に逃げるようになる。常にチームの不安分子だが、激戦を潜り抜けてきただけあって、戦闘力や生存本能はぴか一。
蓮

ロバートジョーダンとマリアは若くて容姿端麗な2人…のように書かれているけど、ロバートジョーダンはアメリカでは大学教授…結構オッサンなのかもしれない…。

「誰がために鐘は鳴る」のあらすじネタバレ

「橋を破壊しろ」という指令を受けて、スペインの山岳部にやってきたロバート・ジョーダン。現地のゲリラのリーダーであるパブロという男に会うが、酒のみの臆病な腑抜けだった。その代わり、パブロの妻のピラールが実質的リーダーとしてゲリラ兵を率いており、橋の爆破の協力を得る。

現地にいた共和党のゲリラたちの多くは、ファシストへの虐殺や、ファシストからの凄惨なリンチに会ったものばかりで、戦争行為の中で行われる悲惨な行為により、心に傷を負っていた。

ゲリラの中に保護されたマリアという若い娘がおり、ロバート・ジョーダンと一目で恋に落ちる。

橋の爆破までの3日間、2人は激しく愛し合うが、常に死が隣り合わせの状況…。垣間見る2人の未来は明るく希望に満ちているが、幸福な未来は実現不可能な夢であった。

いよいよ橋の爆破任務の日に、作戦変更の知らせが届かずに、ロバート・ジョーダンとゲリラたちはなすすべもなく前線で敵と衝突した…。

「誰がために鐘は鳴る」の感想

1人のアメリカ人義勇兵が「橋を爆破する」。これだけの話なのですが、上下巻にわたる長編です。「なんでこんなに長いの?」と思うかもしれませんが、ゲリラ兵1人1人の、このスペイン内乱の悲劇的経験がつづられているからです。中でもヒロインマリアの受けたリンチの描写はすさまじく、現実に起きた出来事であるという臨場感がそのまま伝わってきました。

スペイン内乱はヘミングウェイ自身が参加した戦争でもあり、ここで台頭したフランコがそのままスペインの独裁政治を続けると思うと、スペイン共和党にとっては「恐怖の幕開け」でしかありません。

フランコは我々日本人からすると「聞いたことあるけど」程度の人物ですが、ヒトラーと思想をともにしていたこともあるバリバリのファシストで、敵対した共和党員へ対する弾圧のひどさは、死後も罪状が追加されるほどの歴史的犯罪者と言ってもいい人物です。

このスペイン内乱のすぐ後に第二次世界大戦が続いたとなると、スペイン国民の疲弊は想像に絶します。特に別の作品でもよく目にする、スペイン共和党員の苦しみは、長く続きます…。

蓮

ピカソの「ゲルニカ」もスペイン内乱を描いたものです。

ゲリラのボスの妻のピラールの語る「ファシスト虐殺」の情景も凄まじく、戦争が普通の村にリアルに舞い降りた恐怖を、生々しく感じることができます。「本当に人を殺さなきゃいけないの?」とおずおずとしていた民衆が、虐殺の最後にはこん棒を振り回して大勢を撲殺して回っているのです。その人間の変化が絶妙な書かれ方をしているため、身近にぞっと感じるのです。

「海流のなかの島々」などに比べるとだいぶ読みやすく完成したストーリーで、ハードボイルド系小説の初心者にもおすすめです。

「生と死」が「燃え上がる恋と橋の爆破」に置き換えられて目まぐるしく書かれているため、上下巻の長編があっという間に読めてしまいます。

「誰がために鐘は鳴る」の見どころ

マリアの無垢さ

「キスをすると鼻はどうなるの?」とか「今日はあなたをイギリスさんと呼ぶわ」とか、マリアの無邪気すぎて逆に「19歳という年齢であざとすぎない?」と思えるほどの無垢さが、この物語の悲劇を大きく和らげてくれています。

マリア自身もファシスト党からの集団レイプという悲惨な経験をしているにも関わらず、それを語るとき以外は無垢な少女そのものです。その無垢さがロバート・ジョーダンを癒しもしましたが…マリアと生きる未来を、より「無理に決まっている」とあきらめさせたようにも思えます。

死と隣り合わせの恋

「誰がために鐘は鳴る」の主人公2人の恋は、死が隣り合わせにあるからこそのものです。主人公のロバート・ジョーダンは3日間のうちにあれこれとマリアとの将来を想像するのですが、その妄想と交錯して「橋の爆破」を常に検討し続けます。1人の人間に課せられるには重すぎる任務で、戦局のために自分自身も死ぬ可能性は大きいことを覚悟していました。

ロバート・ジョーダンは確かに橋の爆破で死ぬことを覚悟していたのに、マリアという思いがけない幸せが舞い込んできたために、戦争に命を捧げることに疑問を持ち始めます。けれど結局は、いつものヘミングウェイ作品にならって、「この世界は美しく、そのために戦うに値するものである。そして俺は、こんなにもいい生涯を送ることができた。」と考えるのです。

「70年生きるか、70時間を生きるかと言われたら、おれは迷わずマリアと過ごす70時間をとる」と言い、人生の花ともいえる70時間の蜜月を過ごしたのでした。

橋の爆破は「しなくてよかった」

物語の冒頭に、ボルツという上官から、ロバート・ジョーダンは橋の爆破任務を言われます。そして現地入りして調べたところ、現地に敵兵はほとんどいないことがわかりました。2日目の夜にそのことをゲリラの中のアンドレスという若者に託した手紙で知らせようとしますが、伝達は滞って「作戦中止」の命令は、ロバート・ジョーダンには届きません。やむなく命令を遂行するジョーダンですが、それは「しなくていい」ことだったんです。

スペインの内乱の中で、また世界中の戦争の中で、何度もロバート・ジョーダンのように命を落とす若者がいて、その死を知らせる弔いの鐘は、私たちは「自分の損失」として聞くべきなのだと、何度も言われているのです。

ファシスト党の中尉の視点

物語の中盤でファシストの軍隊と、ロバート・ジョーダンに味方するゲリラの「つんぼオヤジ」のチームとで、激しい戦闘があります。圧倒的劣勢の中で果敢に戦うゲリラ目線もハラハラしますが、数で押すファシスト党の軍隊の中尉の視点も見どころです。

やはり…というべきか、敵方も当然「人間」なので、喜んで戦闘をしているわけではなく、意思を持たない軍隊の手足として戦いながらも「こんなことをしたいわけじゃない」と考えているのです。

戦争を1人の個人視点に落とすと、「別に戦いたいわけじゃないけど、気がついたら自分の立ち位置は今いる場所で、【敵】と呼ばれる人を殺す役割があったから、それを粛々とこなすだけ」という人がたくさんいるんです。ゲリラの中の伝達係のアンドレスという男性も、同じことを考えているのが印象的です。

「誰がために鐘は鳴る」の名言

「誰がために鐘は鳴る」には、ヘミングウェイからのメッセージがたくさん込められています。

戦争っていうものは

「戦争っていうのはなんて嫌なものなんだろう」というセリフは、敵方のファシスト軍のベルレント中尉の言葉です。ゲリラたち3人に対して空爆を行い山を削り取り、更に命令に従ってゲリラの首を切りながら、考えていた言葉です。前線で戦う者たちは双方、「戦争は嫌だ」と考えているのですよね。

「戦争なんてくそくらえだ」と、ロバート・ジョーダンが負傷したときにゲリラのアグスティンが口にします。軍の上層部(フランコ)が起こした戦争に突然巻き込まれたスペイン国民は、こんな心情だったのです。太平洋戦争の頃の日本国民はどうだったのだろう、と考えてしまいますね。

>>海流のなかの島々も戦争の悲劇を描いています

権力の下で生きる方が楽

「もしオヤジが共和党でなければ、おれも今頃ファシスト軍の兵隊になっていただろう。ただ命令通りに動いて、権力の下で生きる方が、それと戦うよりは楽なんだ。」とは、ロバート・ジョーダンの手紙を政府軍に届けるアンドレスの言葉です。アンドレスは父と兄弟とともにパブロの元でゲリラをしていますが、父が共和党でなければ普通にファシスト軍に所属していたのだと、あっさりと考えています。読み手からすると衝撃だけど…戦争を始めた誰かの線引きで、個人の運命は大きく変わるのだと感じられますね。

ネコが一番自由

「動物の中じゃ猫が一番自由を持っているわけだ。猫は、自分のきたないものを埋めるからだ。猫が、一番立派なアナーキストだ。」という言葉も、上のセリフを言ったアンドレスの言葉です。アンドレスは途中から前線を離れて、ひとりで政府軍本部へ馬を走らせて手紙を届けます。その1人の時間にあれこれ考えてるんですよね。「人間は汚いものを平気でさらすけど、猫は隠す分ましだ」という皮肉です。猫好きなヘミングウェイらしい言葉です。

>>海流のなかの島々にも猫が登場

人間を撃つ気持ち

「人間を撃つのは、兄弟をなぐりつけるのと同じ気持ちがする」とは、ゲリラの一員のアンセルモのセリフです。ゲリラ軍の中でもロバート・ジョーダンに親切で忠実でいてくれた優しく頑強な爺さんですが、ファシストであろうとも、同じ人間を撃つことに苦痛を感じているリアリティあふれるキャラでした。

蓮

↓画像タップでAmazonの画面に飛びます。2021年3月時点でAmazonkindleでは読めませんでした。


さいごに

ヘミングウェイは学生時代に全部読みましたが、20年たったアラフォーになってから読むことで、新たな発見がたくさんありました。恋愛や家族や男の人生を掘り下げて書いているようでいて、実は多くが戦争の悲劇を描いているのだと、今頃になってわかります。ヘミングウェイを読んでいて、若い頃は「理解できないな」と感じたのは、今と昔の自分の死生観が大きく変わっているからだと気づかされます。死がより身近になったアラフォーの今だからこそ、読みごたえがあって奥深く、面白く感じられます。

「誰がために鐘は鳴る」によってスペイン内乱という、日本人からは遠い国の悲劇を知り、この時代のこの国でなくなった多くの命に気づかされました。そして、その死を知らせる鐘の音は、現代日本に生きる私たちにも届いているのだと感じました。

まだ読んでいない方は、ヘミングウェイの中ではかなり読みやすい「誰がために鐘は鳴る」を、ぜひ手に取って読んでみてくださいね。

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