太宰治 斜陽 短く

太宰治の「斜陽」は「華族の女性が落ちぶれていく物語」として有名ですが、そうではありません。

明治・大正・昭和の時代を生きてきた太宰治という作家の代表作である「斜陽」は、その時代においては確かに「華族の姫が落ちぶれていく物語」に見えたのかもしれません。

しかし、昭和・平成・令和を生きる女性にとっては、勇気づけられる力強いしたたかな女性の美しい生き方がそこには描かれています。

蓮

太宰の作品では、文句なしの一番面白い作品と言えます!

今回は、太宰治の斜陽のあらすじを短く簡単に紹介いたしますね。名言や当時の時代背景も合わせてご覧ください。なるべくオチは隠しますが、ネタバレの内容を含むため、見たくない方はご遠慮くださいね。

アマゾンkindleは月額980円(初回30日無料!)で12万冊が読み放題の一番お得と言っていい電子書籍アプリです!下記に紹介する本もほとんどすべて読めるので、買う前のチェックにもおすすめです。

\詳細はこちらから/

蓮

漫画もたくさん読み放題だよ♪

「読むのやだ!」ってお子さんにはAmazonオーディブルで読み聞かせがおすすめ!初回無料なので試してみるといいですよ!

私は大人ですが、皿洗いや調理の時にこれで新刊を読んでます。Amazonkindleとタブる提携で、年間数十冊の本が読めて助かっています。「忙しくて本を読む暇がない」という方にものすごくおすすめです!

「斜陽」の評価(わたしの)。
  • 面白さ:5 out of 5 stars
  • 読みやすさ:5 out of 5 stars
  • 導入の引きこみ:5 out of 5 stars
  • 読んだ後の満足感:5 out of 5 stars
  • 読むのにかかった時間:40分

太宰治の「斜陽」の登場人物

  • かず子…主人公で華族の両親を持つお姫様だったが、戦争と父の死で財産を失い、体を壊した母の介護をしながら年齢を重ね、貧困に陥っていく
  • 母様…かず子の母親で華族の女性らしさが抜けない品性ある女性。夫を亡くし、戦争を経て財産や地位を失い、弟にかろうじて養ってもらいながらも、華族としての生き方を貫く
  • 弟…かず子の弟。華族の一員としての生き方に窮屈さを感じて、家のお金を根こそぎお酒に注いでしまう。
  • 伯父様…かず子の母の弟。華族の親類で、落ちぶれていくかず子たちの生活を、かろうじて支えてくれる
  • 上原さん(M・C様)…かず子の秘密の恋人

太宰治の「斜陽」のあらすじを簡単に紹介

父親を亡くして田舎のぼろ屋に移り住み、着物や装飾品を売って細々と暮らす、元華族のかず子と母。そこへ戦争を生き抜いた弟も帰ってくる。弟は家のお金を根こそぎ酒につぎこんで、破滅へ向かって飲み続ける。かず子は弟の評判が悪かったために、嫁入り先から追い出されて母の元へ戻ってきていた。

やがて病にゆっくりと侵された母は静かに息を引き取り、最後の尊い華族の姫を見送るような気分で、かず子と弟は涙を流して悲しむ。更なる深酒に飲み込まれる弟をしり目に、かず子は弟の知り合いに淡い想いを寄せて、自らの体も汚していくのだった…。

「斜陽」の名言は?

生きているのが悲しい

「死ぬ気で飲んでいるんだ。生きているのが、悲しくてしようがないんだよ。わびしさだの、寂しさだの、そんなゆとりのあるものでなくて、悲しいんだ。…努力。そんなものは、ただ、飢餓の野獣の餌食になるだけだ。惨めな人が多すぎるよ。」

かず子の秘密の恋人のM・C様が、行為後にこんなことを言います。行為後にこんなことをいう男最低…。と思うのですが、太宰の作品は戦前戦後にかけて書かれたものが大半です。戦後の日本人男性の悔しさ、やりきれなさ、生き甲斐のなさは、太宰作品はもちろん、三島由紀夫など多くの文豪がしっかりと残してくれています。(→三島由紀夫の金閣寺の感想はこちら)つまり、戦後多くの日本人男性がこのような気持ちに陥ったのだということです。印象に残ったのは、現代の自死をしてしまう多くの若者と、考えが似通っているように感じる点です。心が弱っている時、生きることに立ち向かうためには、お酒は遠ざけた方がいいと感じました。

太陽のように生きる

革命は、いったい、どこで行われているのでしょう。すくなくとも、私たちの身のまわりにおいては、古い道徳はやっぱりそのまま、みじんも変わらず、私たちの行く手をさえぎっています。…けれども、…こいしいひとの子を生み、育てることが、私の道徳革命の完成なのでございます。…けれども私たちは、古い道徳とどこまでも争い、太陽のように生きるつもりです。

斜陽のクライマックスで、かず子は恋人の上原に胸の内を明かします。(恋人、と呼べるかな…一度もてあそばれただけの関係です)この箇所こそ、かず子が「落ちぶれた女」ではなく、「誇り高く自分で選んだ人生を生きていく強さのある素敵な女性」とわかる感動的な個所です。

古い文化は「革命」で変わると思っていたのに、落ちぶれた華族にのしかかる古い道徳に縛られ続けて生きるかず子。華族の姫として尊いまま死んでいった母。落ちぶれた華族として生きる力を亡くした弟。

しかしかず子は違いました。変わる世の中の変わらない道徳の窮屈な中でも、自分らしい生き方を選んだのです。

そしてそのことを喜んでおり、ちっとも恥じていない。かず子にとって、好きな人の子を身ごもることこそ「革命の達成」だったのです。こんな強い女性の生き方があるか!と感動するシーンなのに、世の中の「斜陽」の評論家たちは「華族の姫が落ちぶれていく物語」と評価するなんて…評論家たちは男性だからこの強さや誇り高さがわからないのかもしれませんね。

かず子は旧体制の「華族とはこうあるべき」にも支配されずに自力で抜け出し、革命のもたらした退廃した闇にも飲み込まれず、持ち前の強い心で太陽のように生きていく道を選んだのだと、はっきりと書かれています。

これが「勝利」でなくてなんでしょう。

戦争に負けた国の男は恥辱を舐めて酒浸りで死んでいく一方で、大地に根を張り、強くたくましく次世代を育てる女性こそ、今の日本の「建国の母」と言えるでしょう。華族であろうと女性は強い!地位や名誉よりも「子ども」によって強さを得る、最強の女性像が描かれていました。

「斜陽」の見どころと感想!

変わらない母様

斜陽では物語の冒頭から「スープを信じられないくらい上品にすする母」の描写が出てきます。華族の姫として誇り高い生き方をしたまま、静かに亡くなっていった母は、戦争によって敗れた国・失われた文明の最後を表しているかのようです。戦争に負け、母は死に、それまで日本が大事に守ってきた大きな文明が一つ、亡くなったのです。風と共に去りぬのメラニーがなくなる時のような、文明の喪失を思わせる死でした。(→風と共に去りぬのあらすじネタバレはこちら

変わっていく弟

戦後の日本文学によくよく登場する、戦後の屈辱を舐め、やり場のない想いを酒と女につぎ込んで、堕落していくタイプの弟です。元華族というプライドを持っているため、余計に苦悩は重かったらしいですが、父親が生きていればあるいは、生きる道があったかもしれません。というのも、最後に弟から姉に対する手紙を見ていると、かず子も弟も母も、実に華族らしい品性ある人物なのだとわかるからです。品性ある人間にとって、落ちぶれていく屈辱と、何もできない自分へのいら立ちはたまらないのでしょう。生きていくのが辛いのだと、よくわかる存在感のある弟でした。

戦後の日本の退廃

戦争に負けた日本は、GHQによって古き良き文明を全てはぎ取られ、金にまみれた資本主義社会に飲み込まれていく中、負けた恥辱を負った男たちは酒に飲まれていく…。というわかりやすいストーリーでした。男性陣が実に弱弱しく書かれているのに対し、最後まで華族としての品性を持ち続けた母様と、華族としての地位もプライドもずたずたになっても尚、好きな人の子どもを身ごもり、前を向いて生きていくと誓ったかず子…女性陣の強さが対照的な作品でした。

かず子の強さの源

斜陽はかず子の一人称で書かれています。途中で1か所だけ、弟がかず子にあてた手紙がある以外は、かず子の主観で書かれています。

その中では、かず子は「母様こそ本当の華族」として、品性豊かな生まれながらの姫君である母の立ち振る舞いを尊敬して生きていることがよくわかります。一方で、母親をそのように客観視するかず子自身は、「自分は母様のようには生きられない」と自身を評価していることに気が付きます。

けれどもかず子は恋した男性に対して積極的に迫っていき、結果遊ばれはしたものの、身ごもった子どもを誇りに思い、その子と強く生きる道を選びます。最初から最後まで、マイペースで他者の意見をはねのけ、ゴーイングマイウェイなのです。それこそがかず子の強さです。経済力こそ人に委ねてはいるものの、家事も介護も弟の世話まで「華族の姫だから」と決しておろそかにはしていません。元々自我が強く、自分のことは自分で決めていく強さがあり、自己肯定感も高めです。かず子はとても強く尊敬できる女性なのです。

かず子と言う女性

一方で、作中で唯一かず子以外の主観で書かれている個所が興味深いです。かず子の弟が、かず子にあてた手紙の中で「自分亡きあとも姉さまは大丈夫だと確信している。この世の中で、母様と姉さまだけが本当に美しくて賢いから」と書いています。弟目線では、かず子も母と同じ気高い生き方をしているように見えたのでしょう。

「斜陽」は実話なの?

斜陽の主人公、かず子にはモデルがいます。実家が九州の大名の末裔である太田静子(おおたしずこ)という女性です。自らの体験記を書いた日記を太宰に見せたことで縁があり、妻子ある太宰と恋に落ちて子どもを身ごもります。太宰は認知をして、本名の「修治」から一文字とって「太田治子」と名付けます。

太宰の死後に太田静子は自分の書いた「斜陽」の元になった「斜陽日記」を刊行し、内容が斜陽と大いにかぶることから話題になりました。親類の手を借りながらも、一人で娘を育て上げ、昭和57年に69歳の人生の幕を閉じたのです。

蓮

力強い生き方といい、確かにかず子とイメージが重なりますよね

ちなみに静子さんの娘さんは作家の太田治子さんです。

太宰治の「斜陽」まとめ

  • 太宰治の「斜陽」は落ちぶれていく華族の話ではなく、落ちぶれていく華族の中で、たくましく生きる道を見つけた女性の成長物語である。

これから斜陽を見る方はぜひ、地位も名誉も家族も財産もなくした女性が、焼け跡の中から凛と立ち上がり、前向きに生きる姿を楽しんでください。

斜陽は、けして華族の姫が落ちぶれてけがれていくストーリーではありません。

戦争で何もかも失い、生きる希望を失くして酒におぼれていく男たちを顧みず、胸を張って自分らしい生き方を肯定して生きていく、強い女性の物語なのです。

蓮

だから太宰さんは好きです。

太宰さんは妻のほかに愛人たちを囲っている女性にだらしないイメージのある作家さんですが、斜陽では、前向きで美しい女性の生き方をしっかりと書いています。モデルとなった太田静子さんは不遇のイメージですが、そんな風には全く思えません。太宰さんは静子さんを世間知らずでおっとりしているが、生活力があり家族思いで、芯のある強い女性として捉えているのだと、斜陽を読むとよくわかります。

斜陽は期間限定でAmazonで無料で聞くことができます。オーディブルならラジオドラマみたいでスルスル頭に入ってきます。