嵐が丘は、エミリー・ブロンテの生み出した不朽の名作です。私は実は妹のシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を先に読んで、その後この名作に手をかけました。姉妹そろって何たる才能…
そして「嵐が丘」にも「ジェーン・エア」にも登場するイギリスの地方のヒースの咲き乱れる殺伐とした広大な大地が、物語の背景として横たわります。
嵐が丘の主人公のヒースクリフの名も「ヒースが咲き乱れている地域で拾われたから」。
ヒースの大地が生んだ悲劇と、人間の愛憎劇が、何度でも何度でも人間の根幹を揺さぶってきて、人生で何度も繰り返し読んだ、大好きな本です。
今回は私なりに、嵐が丘のあらすじを(ネタバレになります)紹介し、作品の見どころをお伝えしていきますね!19世紀イギリスの農村部に、タイムスリップしましょう。
- 面白さ: (5 / 5)
- 読みやすさ: (4 / 5)
- 導入の引きこみ: (4 / 5)
- 読んだ後の満足感: (5 / 5)
- 読むのにかかった時間:100分
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嵐が丘の登場人物一覧
- アーンショーの主
…キャサリンとヒンドリーの父親で一家の主。物語の序盤でなくなるが、実子のヒンドリーと孤児のヒースクリフの間に深い溝を作る原因の一端であるとして、無視できない存在。常に公平であろうとしたが、炎の気象を持ったキャサリンや、嫉妬心にさいなまれるヒンドリーを理解しきれないまま亡くなってしまった。 - ヒースクリフ
…物語の主人公。ヒースの中に捨てられていたジプシーの孤児で、キャサリンの父親に拾われ、屋敷で育っていくことになる。キャサリンの父が生きているころは尊厳を持って養われるが、キャサリンの父が亡くなった途端にヒンドリーから奴隷的な扱いを受け、キャサリンとの絆も打ちのめされてしまう。そのことを恨みに持ち続け、やがて巨万の富とともに屋敷に舞い戻り、ヒンドリーへの復讐を始める。 - キャサリン・アーンショー
…アーンショー家の令嬢。ヒースの中を駆け回って育つたくましい元気なタイプの女の子。こざかしく計算高い一面を子どもの頃の性質として持っているため、その炎のような頑固で強い性質を、両親にすら受け入れてもらえなかったが、ヒースクリフだけはキャサリンを完全に理解しており、ヒースクリフと魂の硬い絆で結ばれていた。 - ヒンドリー・アーンショー
…キャサリンの兄で、父親亡きあと家の主としてヒースクリフを徹底的に虐待して、身分の違いにより差別化した。妻のフランセスと結婚してヘアトンをもうけるが、妻が早世した後は酒におぼれて財産を食いつぶし、家はみるみる衰退していく。 - エドガー・リントン
…アーンショー家の隣人の貴族階級の長男。隣人と言っても数キロ離れたお屋敷。ある日いたずらをしに来たキャサリンとヒースクリフに偶然会い、美しい容姿のキャサリンに夢中になって、成人してからは求婚することになる。キャサリンとヒースクリフの切れない絆に嫉妬に狂う時期もあったが、聖書を己の旨として、良く、正しく生きようと試みた誠実な人柄。 - イザベラ・リントン
…エドガーの妹。成人して冨とともに舞い戻ったヒースクリフに淡い恋心を抱くが、後に打ちのめされる。ヒースクリフとの間に「リントン・ヒースクリフ」を産むが、病気で早世する。 - キャサリン・リントン
…エドガーとキャサリン・アーンショーの一人娘。美しい容姿は母よりも父方ににており、母の炎のような気性よりも、善人で穏やかな父親の気質を受け継ぐ。母に似ていないことから、ヒースクリフに利用され恨まれるが、数奇な運命で幸福な結末を迎えることができる。嵐が丘の暗闇が明け、朝日を目にすることのできた女性。幼いころから母がわりに自分を教育し愛し続けてくれたネリーを、実の母のように慕っている。 - リントン・ヒースクリフ
…イザベラとヒースクリフの息子で、ヒースクリフの悪事から我が子を守るために一時身を隠して母子で街で生活をする。母から愛情をそそがれてひっそりと暮らしていたが、10歳の頃母が病気で亡くなり、泣く泣く兄のエドガーの元へと連れてこられる。しかし実の父のヒースクリフが権利を主張し、リントンをヒースクリフの屋敷へと連れていってしまう。数年間、ヒースクリフの元でゆがんだ人生観を植え付けられたリントンは、数年後に再会した時には人格が変わってしまっていた…。そしてヒースクリフの言いつけで、キャサリン(娘の方)に恐ろしい罠を仕掛けてくるのだた… - ヘアトン・アーンショー
…ヒンドリーとフランシスの息子。幼いころは両親とネリーの元で可愛らしく育つが、後にヒンドリーが酒におぼれて、キャサリンが家を出てしまうと、ヒースクリフによって養育されることになる。ヒンドリーからの虐待に恨みを持つヒースクリフは、ヒンドリーの息子のヘアトンに対して「勉学を教えない」というゆがんだ形の虐待を行う。それによって成人しても字を読むことができず、農夫として日々糧を貪って生きるヘアトンだったが、突然現れた美しいいとこのキャサリン(娘の方)の存在で、人生を揺さぶられていく…。 - ジョーゼフ
…お屋敷にずーーーっといるお爺さん。最初はジプシーの孤児のヒースクリフを疎んでいたが、ヒースクリフが巨万の富を得てお屋敷に戻り、ヒンドリーが落ちぶれてからはヒースクリフの腰ぎんちゃくのように付きそう。が、腹の中では「ジプシーの子。ここで起きる不幸はみな、ヒースクリフを拾ったことから始まる」と考えている。 - フランセス
…ヒンドリーの妻で病弱ゆえに早世。出自の良くない家柄らしいが、ヒンドリーと愛し合っていた。 - ロックウッド
…時代と飛び越えて、新世代の嵐が丘に訪れた都会から来た青年男性。ヒースクリフを主人とした嵐が丘の隣人として、かつてのリントン家を買い上げ、そこの女中のネリーから、寝物語として「嵐が丘で起きてきたこと」を聞く。娘の方のキャサリンの美しさが忘れられず、キャサリンと知り合いになりたいと願い、何度か嵐が丘を訪れる。完全なる「外からの人間」の視点をもって、嵐が丘の不気味な人間関係を浮き彫りとする。 - ネリー
…嵐が丘の物語の語り手。ヒンドリーと同じ年の女中の女の子として、ヒンドリーとキャサリンと、ヒースクリフとともに成長する。後にキャサリンに付き添ってリントン家へ奉公することとなり、主人の娘のキャサリンの乳母として、慈しみ育てる。成長したキャサリンをヒースクリフの魔の手から何とか救い出そうと、使用人としての立場を越えない範疇で、物語の主要キャストへできうる限り誠実に真摯に対応をしていく。
嵐が丘を読む前の注意点
「嵐が丘」は登場人物の名前がめっちゃややこしいです!
キャサリン⇒2人いる。(しかもダブル主人公)母子どっちも「キャサリン」だけど、
- 母の子どもの頃…キャサリン・アーンショー
- 母結婚後…キャサリン・リントン
- 娘子どもの頃…キャサリン・リントン
- 娘結婚後…キャサリン・ヒースクリフ
- 娘、多分最後に…キャサリン・アーンショー
ヒースクリフもややこしい。名前なのか苗字なのかごっちゃにしてくる。
- ヒースクリフ…主人公(名前これ一個)
- イザベラ・ヒースクリフ…ヒースクリフと結婚した時に、ヒースクリフが名前でもあり苗字でもあるってことになった
- リントン・ヒースクリフ…イザベラが自分の息子に「リントン」と名付けた(イザベラ・リントンという苗字だったのにここでリントンも名前になった)
- キャサリン・ヒースクリフ…キャサリンがリントン・ヒースクリフと結婚してこんな名前になった
もう意味不明
ややこしいのは「キャサリン」と「ヒースクリフ」だけなんだけど、主役2人の名前がややこしいから、全体的にややこしく感じます。
嵐が丘・あらすじ【前半】
嵐が丘という、イギリスの田舎のヒースの咲き誇る地域の物語。
仕事で旅に出ていた嵐が丘の主人のアーンショー氏が連れ帰ったのは、一人のジプシーの孤児だった。情けをかけて家で育てることにし、ヒースクリフと名付けた。
屋敷にいた2人の子どもヒンドリーとキャサリンは、物珍しくヒースクリフをみていた。妹のキャサリンは炎の気性。父親も使用人にも手が付けられないわがまま娘で、枠にはまることを何よりも嫌った。ヒースクリフとキャサリンは意気投合し、忍耐強いヒースクリフはキャサリンの全てのわがままを聞き入れ、受け入れ、2人の間には固い絆が生まれていた。
兄のヒンドリーはヒースクリフをキラい、父の死後は当主としてヒースクリフを虐待しはじめた。ヒンドリーはやがて結婚して子どもを産むが、ヒースクリフの境遇はどんどん落ちぶれていき、ついに屋敷から姿を消してしまった…。
親友ヒースクリフがいなくなり絶望のキャサリンは、近隣の屋敷の息子と結婚してしまう。
嵐が丘・あらすじ【中版】
ヒースクリフの帰還
キャサリンがリントン家に嫁に行ってから時が過ぎて、ある時ふと嵐が丘にヒースクリフが帰ってきた。下働きの孤児であったヒースクリフが、立派な服を着て堂々とリントン家の門をくぐり、キャサリンに会いに来たのだった。キャサリンは歓喜してヒースクリフを迎え、再会を心から喜んだが、夫のエドガーはヒースクリフを良く思わなかった。
ヒンドリーの落ちぶれ
数年後、嵐が丘では、ヒンドリーが酒と博打におぼれて、資産を食いつぶしていた。
あるとき姿を消していたヒースクリフが、財産を身につけて屋敷に舞い戻ってきた。酒におぼれているヒンドリーの弱みに付け込み、ヒンドリーの財産を根こそぎ奪ってしまった。
金持ちになったヒースクリフはしばしば結婚したキャサリンを訪ねてきて、キャサリンは夫とヒースクリフの板挟みになり寝付いてしまう。ヒースクリフはキャサリンの夫の妹と結婚するも、キャサリンとヒースクリフの想い合う糸は切れなかった。
遂に思いつめたキャサリンは、子どもを産み落としてそのまま亡くなってしまう。
嵐が丘・あらすじ【後半】
キャサリンの死後、ヒースクリフは嵐が丘で土地を管理し、農地を整地して、ヒンドリーの息子のヘイトンの父代わりとして淡々と日々を送っていた。
隣家のリントン家では、キャサリンの娘のキャサリンが、父の深い愛情と、召使いのネリーのたゆまぬ献身を受けて、すくすくと美しく成長していた。
自分の境遇を憎むヒースクリフは、愛するキャサリンの娘の財産もすべて手に入れようともくろみ、やがて幼い娘も深い因縁に巻き込まれ、人生を壊されてゆく…。
嵐が丘・序章と最終章
物語の一番最初は、ここから始まる。
あるときに嵐が丘のリントン家を買い上げた都会の貴族の息子ロックウッドは、ぶらりと自分の「田舎の別荘」を訪ねる。家を売ってくれた隣人は、愛想の悪いヒースクリフという変人。ヒースクリフの家にいる使用人も同居人も、すべて変わっていた。田舎の片田舎にしてはめずらしいほどの美女、キャサリンに一目で心を奪われたロックウッドは、家に帰って古株の使用人のネリーに、今までの全てのいきさつを、寝物語として語って聞かせてもらうのだった。
ネリーは使用人ながらも、母のいなかったキャサリン(娘)の育ての母。ロックウッドがあわよくばキャサリンを見初めて救い出してくれるのでは?と期待を込めて、嵐が丘のヒースクリフの物語を語って聞かせてくれるのだった…。
嵐が丘の見どころ
ヒースクリフとキャサリンの絆
2人の硬いきずなは、なんで壊れたのか…考えると、身分の違いは大きく横たわります。ヒースクリフが孤児であったことと、キャサリンの家が貴族であったこと(のちに没落するけど)…なのかなぁ。
けど、キャサリンの方は何があってもヒースクリフよりもエドガーを選ぶなんてこと、ないと思うんだよ。だから、2人が結ばれなかったのは、結局自分に自信をなくして逃げ出したヒースクリフが原因だと思う。キャサリンとの絆を信じて、とどまってほしかった。
性描写が一切ない
嵐が丘には、性的な描写が一切ありません。この時代の多くの作品がそうであったように、全体的に謎めかして書いてあり、ある時急に「子どもが生まれた」と表現されます。作者のエミリーブロンテの性質によるものかもしれないけど、だからこそ掻き立てられる「想像力」の方は、存分に掻き立てるような書き方をしてくるんですよ。
「ヒースクリフは、実に『彼らしい』触り方でイザベラに触れた」とかね。過去にたくさん映像化されている作品で、中には脚本家の解釈で性描写が加えられたものもたくさんあるけど、原作に一切性描写はありません。
ヒースクリフが財を成した理由
これは作中でも不明です。なんか悪いことをして(博打とか人殺しとか)財を成したんだろうけど、とにかく超お金持ちになって戻ってきました。
エドガーとヒンドリーの差
妻を亡くした2人の男として、エドガーとヒンドリーは並べおくことができます。ヒンドリーは酒と博打におぼれ、エドガーは聖書と愛の中で穏やかに過ごした。この2人の違いは…育て方?wもともとの気質がぜんぜん違いますからね。
ネリーの語りとキャサリンへの愛
物語の語り手のネリーは、最後は50歳くらいのおばさん。最初はヒンドリーとほぼ同い年の幼い少女です。勉強ができ、理路整然と物事を説明することに長け、後に長年の奉公でためたお金で、なんとかキャサリンを救い出そうとする、愛情あふれた女性です。彼女も幸せになれて本当によかった!
ヒンドリーの死を悲しんでいた唯一の人物であったことと、母のキャサリンを嫌っていたのに、娘のキャサリンをこよなく愛していたのも印象的でした。
ロックウッドの存在理由
都会から来たロックウッドの存在が、嵐が丘で起きたすべてを、外の世界から遮断された狭い界隈での奇妙な出来事という、物語の枠組みを強調しています。
ロックウッドは物語の冒頭と、終盤にのみ存在感を表わします。
最初は嵐が丘に来て、隣人のヒースクリフを訪ねてキャサリンを見初めたとき。
次に、時間が経ってからふと、思い出したように立ち寄って、キャサリンとヒースクリフの結末を聞いたとき。
彼の「嵐が丘にいる間は夢中になって、離れたとたんに忘れるほどの遠い距離間」が、ちょうど読者としての私たちの視点と似通っていて、嵐が丘の2つの屋敷の悲劇を「物語化」するんです。
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さいごに
語りつくせない嵐が丘の魅力…。作者のエミリーブロンテの姉のシャーロットは、有名な「ジェーン・エア」の作者なんです。
1男5女のブロンテ家の文才もすごいですが、家族の作品を通して物語に「ヒースで覆いつくされた丘」が出てくるんですよね。
いつか、イギリスの片田舎に行って、ヒースの丘をこの目で見たいと思える、名作です。いつか手に取って読んでみてください!